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[徹底レポート] 制作側から学ぶ : ピクサーの映像制作プロセス

3月6日に開かれたピクサー展関連企画「飛び出せ!未来の巨匠たち」に参加させていただきました。

ピクサーにて撮影監督とライティングをされている、シャロン・キャラハン氏のお話を聞いてきました。今回は講義の模様を徹底レポートしていきます。

入社した時は小さな会社だった

入社した当初のピクサーは小さい会社でした。今はもちろん当時よりはるかに大きくなっています。

会社のモットーは「共同作業・クリエイティブコーボレーション」です。

社員同士のの関係性をよくするためにも、会社内にはプールやバスケットコートなどもあります。

また、作品を製作する際は各自でアイデアを考え、それを持ち寄って共同で考えていくというスタイルをとっています。

オフィスは個々の自由で好きなように改築して良いようになっています。

ハワイアンテイストのオフィスやたくさんのミニカーやおもちゃがあるジョン・ラセターのオフィスなどの写真と共に説明

制作過程で社員が良いものを完成させた際に、監督がハグするのが伝統です。

ピクサーではクオリティの高いものを目指し、社員が楽しくインスパイアし合いながら、スキルを高め合うという形をとっています。

まるで、一つの家族のような会社でお互いが助け合い、持っている情報をシェアしたりします。

『アーロと少年』は芸術とテクノロジーが融合した作品です。芸術を追求するとテクノロジーを追求していることになり、その逆もあります。

しかし、テクノロジーの進化で”アニメさ”が失われないように注意しながら作品を制作しています。

リサーチでキャラクターになりきる

常に、ストーリーが映画制作の軸です。”Story is king”という言葉がピクサー社内に多く掲げられているくらいストーリーを重要にしています。

ストーリーは映画を作っていく際に常に少しずつ変化していきます。ストーリー自体が完全に完成するまでに、基本的には4,5年、長くて6年かかります。

『レミーとおいしいレストラン』と『アーロと少年』の2作品に関しては途中で大きく変わりました。

ストーリーは監督1人では決めません。ストーリーチームという複数人と相談して決めていきます。

監督がその映画で何を観客に伝えたいのかを決め、どのような経験を通じて伝えるのかをストーリーチームが決めます。この経験というのは誰もが体験したことがあり、共感できるものになるようにしています。

作品を作る上でモデルとする場所の「リサーチ」をしています。例えば、『アーロと少年』ではワイオミング州の森林へ。『レミーとおいしいレストラン』ではレストランの厨房で実際に調理。『カーズ2』では実際に東京に来ました。

リサーチの時にキャラクターが体験するであろうことは、自分たちも体験するようにしています。『アーロと少年』では森林の中を実際に廻りました。リサーチはキャラクターと同じくらい重要な工程として扱われています。

キャラクター、観客の目線で描く

キャラクターを決めるときにはキャラクターはまず平面で書いてから、彫刻で立体にしてアートワークで描いていきます。アートワークでは背景とキャラクターのマッチ度も考えます。

また、観客が違和感を感じないように草や手の大きさの違いを確認したりして、スケールも考えます。

キャラクターの肌に対する光の反射もしっかりと確認します。そのため、「メリダとおそろしの森」では社員の髪形をメリダのようにしました。

キャラクターの動作はまず、キャラクターの筋肉や関節、骨などの内部構造から考えてそれに皮膚を被せてから作っていきます。

CGでは水や煙なども表現可能ですが、一番難しいのは水です。水中から見たり、滝などの動きの激しいところは、それぞれ水面の様子が違って難しいですね。

まず、ジオラマを作ってからCGで作っていきます。『アーロと少年』の背景の作り方を見させていただきました。何もない更地に雑草や岩、木などをそれぞれ付け加えていくのです。

雲は小さいものを1つずつ加えていって大きなものにしています。容積を測れるくらいのクオリティに目指しました。

『アーロと少年』では270種類の木を描いていています。葉を揺らす強度も15段階ありました。

下絵を描いたら、光や影を加える作業から始まります。

悲しいシーンを描きたいとき、背景に美しいもの(輝く水面など)を入れることで、胸を打たれるような悲しさを表現しています。

ストーリーのショットを並べて光加減を見ると、ある程度物語の内容がわかるようになっています。

このような手順の後、音楽や3D上映にも対応させて完成です。

参加者からの質問

Q.「作品にクオリティを求めると楽しくなくなるのではないですか?」

A.「そのバランスを見つけて自分の限界を知り、その限界を超えることにより達成感を感じ、喜びを感じ結果楽しく感じますよ。」


Q.「リサーチをする際にあらかじめモデルの場所を決めてからそこに行くんですか?それとも現地に行ってから決めるんですか?」

A.「基本的にはいくつかの候補地をあらかじめピックアップしてそれらの場所に行ってから最終的に決める。『アーロと少年』の場合は監督に”モデルになりそうな場所はないかー”と尋ねられ、たまたま私が場所を知っていたのでそこに行ってみたら、監督がそこを気に入りました。」


Q.「”Story is king”と言っていましたが、キャラクターがストーリーに合わないときはストーリーは変えないのですか?」

A.「ストーリーの変更によってキャラクターが変わることがあります。しかし、ストーリーとキャラクターはリンクしています。そのため、一方がおかしいと、もう片方も何かおかしな点があるはずです。」


Q.「ピクサーでは人間以外を主人公としていますが、感情を持っているように見せるにはどうしていますか?」

A.「基本的に物に目を付けると、それが人間のようにみえ感情を持っているように見えますよ。」


Q.「アニメーションが進化しすぎた今、どのように”アニメさ”に戻していくんですか?

A.「作品によってどうするか決めます。『アーロと少年』ではキャラクター達の視点になって欲しいので写実的に見せるのに対して、『インサイド・ヘッド』では頭の中は写実的な世界を描けないので”アニメさ”を持たせました。」


Q.「自分たちがやりたいことができないとき、それをできるようにするんですか?それともできる範囲のことでやるんですか?」

A.「基本的には妥協せずに、それをできるようにチャレンジします。」


Q.「シャロンさんがピクサーに入社した経緯と現在入社する方法は何ですか?」

A.「4歳くらいの時にはディズニーに携わりたかったのですが、PDI(ドリームワークスの子会社)に勤めていたとき、同僚の何人かがピクサーに入社するのに同調してピクサーに入社しました。(シャロン氏がピクサーに入社した当時はコンピューター自体が普及していなかったことを踏まえて)あなたたちが将来就く職業は今存在するかもわからないのだから、まだ仕事を的確に決めずに自分の可能性に賭けなさい。新しいテクノロジーも恐れずに積極的に物事に取り組んでくださいね。」

ピクサーはインターンシップのプログラムを積極的に行っています。応募はピクサーのホームページから可能です。
自分の作品をピクサーに送って入社の応募をすることもできます。また、中途採用も行っています。(レンダーマンを使って、ピクサーチャレンジしてみては?)

Q.「ピクサーがスキル以外に採用する社員に求めるものは何ですか?」

A.「その人が”自分は何を求めているのかー”それを明確にしていて話せること”,”他人と比べて長けているものを持っていること”ですかね。」


Q.「作品を作る上で良し悪しを判断する基準は何ですか?」

A.「作者の心が伝わるものが良いものとしています。」


Q.「イースターエッグを入れる場所はどのように決めているんですか?」

A.「常に入れるのに最適な場所を探していて、見つけたら入れています。」

感想 : 技術の高さに驚かされた

シャロンさんのお話を聞くというとても貴重な体験をさせていただきました。感謝の気持ちでいっぱいです。

お話を聞いてピクサーの技術の高さに改めて驚かされました。妥協せずに作品制作に取り組む社員の姿を見て私もその姿勢を真似したいと思います。

ピクサーという会社を知るとともに、自分の将来について向き合うとても良い機会になりました。

スタジオ設立30周年記念 ピクサー展

会期:3月5日(土)~5月29日(月)
会場:東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)
観覧料:一般1500円/高校・大学生1000円/小・中学生500円
※未就学児は無料
公式サイト : PIXAR: 30 YEARS OF ANIMATION

 

この記事を書いた人
マーベル、スターウォーズ、ディズニーが好きな高校生。 歌う映画・ドラマが大好物。
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